今日の昼…、食事をおえて次の仕事に向かう前、ひさしぶりの喫茶店に訪れる。
ミロンガ・ヌオーバ。
神保町の路地の裏。
車が入れぬ路地がたくさんあるこの街の、中でもひときわ細い路地。
道路が先にできたんじゃなく、家と家の隙間が自然と通りになった…、そんな感じの曲がりくねった小さな通り。
ビルの窪みのようなところに、ベスパや自転車。
植木が沢山。
洗濯物を干した物干し竿が視界を横切ったりする。
ネコが似合う景色でござる。
昔からある喫茶店が2軒ある。
ラドリオ。
それからミロンガ・ヌオーバ。
最近、一軒。
ホワイトカレーを売り物にした、ちょっとおしゃれなカフェができたけど、どこのお店もほどよく静か。
通りを通る人もまばらで、ずっとカメラを構えていてもまるで気にはならないおだやか。
この通り。
晴れた日にくるより、なぜだか曇り。
あるいは今日のように小雨がふっている湿った空気の昼下がり…、影がシットリやわらかな日に来るのが似合うような気がする。
そしてミロンガ。
ガタガタきしむような落として開くドア。
レンガの壁にレンガの床。
白い漆喰が塗られた天井に木の梁が、山小屋風の店作り。
昼なお影が忍び寄る、シットリとした落ち着く空間。
大きく古いスピーカーが壁にカチッと収められてる。
そこから流れる音はタンゴ。
アルゼンチン系のバンドネオンがキラキラきらめく、力強い音。
しかもレコードの音であります。
楽器の音に混じって針がレコード盤をこする音がする。
それが不思議と耳障りがいい。
バンドネオンの音ってなんで、こんなに胸をかきむしるんだろう。
情熱的で、力強くて、なのになぜだかうら寂しくて。
切ない音がココロに響く。
古いテーブル。
分厚い一枚の板がテーブルトップになっていて、何度も何度も磨いたのでしょう。
木目にそって柔らかいところが削れてしまって、なでると手のひらにその凸凹が伝わってくる。
真ん中部分がちょっと歪んで盛り上がり、コーヒーカップを置くとカチャリとしばらく揺れて居心地よいとこを見つけておさまる。
酸味を帯びたおだやかな味。
ココのブレンドには、やさしく甘い味わいがある。
タンゴの音にピッタリよりそい、一口すすると気持ちがフッとやわらかになる。
肩の力がストンとぬけて、コクリと飲むと思わず笑顔がこぼれだす。
注文すると、タポタポ、熱湯がカップに注がれ、器を温めることからはじまる。
ドリップコーヒー。
カウンターの高いところから、お湯を注いでユックリユックリ…、時間をかけて落としたコーヒー。
海の外からやってきて、日本の人が時間をかけてここまでおいしい飲み物にした。
世界のどんなところで飲むより、日本の昔ながらの喫茶店で飲むコーヒーはやさしく、甘く、香り豊かでおいしく感じる。
日本人の味に対する繊細と、几帳面と忍耐強さがこうした美味を作りあげたに違いない。
「舶来モノ」と呼ばれるすべて。
ただ日本に外からやってきたモノじゃなく、日本の人がほんの少しの、けれど確かな手をくわえ最上級にカスタマイズしたモノが、輸入品から舶来品に昇格したのに違いない。
そんな日本の力を味わい、ボクらももっとがんばらなくちゃ、と思ったりする…、そんな昼。
外にでたら、こぬか雨。
折り畳みの傘がカバンの中に入ってはいる。
けれどなんだか取り出すコトも面倒で、ちょっと濡れてまいりましょうか…、と、粋を気取ってそのまま駅までユッタリあるく午後のコト。
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ちなみにミロンガ。
アルゼンチンやブラジル南部のタンゴにあわせて踊るダンスや、あるいはダンスホールのコトをそういうのだそうで、それから転じてダンスパーティーのコトもミロンガっていうんだという。
ミロンガって名前の曲がなにかないかなぁ…、と探してみたら、ありました。
ピアソラの「ミロンガ・デル・エンジェル」って言う曲…、うなります。
ピアソラっての曲って、なんて独特。
明るいのか暗いのか、力強いのか儚いのかわからぬメロディー、そして音。
聞いてるときの気持ちにあわせて曲のイメージが変わって聴こえる…、まるで「ココロのつぶやき、ココロの唸り声」。
だから何度聴いてもココロ揺さぶられるのかもしれない、なんだか涙がでてきます。
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