午前中の仕事を終えて、次の打ち合わせに向かう途中で腹ごしらえをと日本橋…、お多幸本店にやってくる。
おでんのお店。
そこのランチの名物料理。
「とう飯」をひさしぶりにいただきましょうか…、とそれでテクテク。
日本橋の高島屋の近所の路地裏にある小さなお店。
それにしてもこの界隈。
本格的に再開発がはじまるんですね。
高島屋の周りの土地が更地に徐々になりはじめていて、調べてみれば超高層ビルが何本もたつ計画になっているのだそう。
この路地裏はなくならないで…、って思ったりする。
どうだろう。
ところでおでん。
四国にいた頃、ボクを育ててくれたばぁやさんが「関東にはなにもかもが真っ黒な関東炊きって食べ物がある」。
それを関東の人はおでんと呼んで食べてるんだ…、と良くいっていた。
愛媛のおでんは薄口醤油のお出汁で炊いた色白さんに、おでん用の味噌をタップリのっけて食べる味噌おでん。
醤油の味で、そのまま味わうおでんがあるって想像することもできなかった。
日本全国共通の味って未だ登場してなかったし、なによりケンミンショーのようなテレビ番組もありはせず、関東炊きは頭の中で思い浮かべる見知らぬ地方の味だった。
その関東炊きの総本家のようなおでんの老舗。
お店のドアをガラッと引くと、中から出汁の匂いがポワン。
それと一緒に醤油のコッテリコクのある香りが漂い、体の周りにまとわりつくようなおいしい匂いに満たされる。
カウンターに座って一言。
「とう飯、ください」と注文します。
次々やってくる人たちほぼ100%、とう飯くださいとまるで呪文のように告げます。
ここの名物。
もともとまかない飯からスタートし、常連さんが夜におでんで酒を飲み、その〆として無理を言って注文していた。
隠れメニューがこうして昼の名物になる。
これを目指して次々人がやってくる、それだけの価値のある料理でもある。
座るとすぐにやってくるのも、またうれしいとこ。
だって簡単。
おでんの出汁で煮込んだ豆腐を、茶飯の上に乗っけるだけ。
乗っけたところにおでんの出汁をザブっとかけて、はい、どうぞと。
座ったところが、ちょうどおでんを焚く鍋の前。
四角い鍋にいくつか仕切りが付けられていて、豆腐の炊け具合をみながら徐々に左手から右手に豆腐を移動していく。
鍋の一番右手には、褐色肌に出汁を吸い込み茶飯の上に乗せられることをまってる豆腐がプカプカ浮いて、泳いでる。
箸で豆腐の様子をみながら、よい頃合いでおたまで引き上げ茶碗に持ったご飯の上にそっとのっける、プロの手際にウットリします。
タップリとした茶飯に豆腐。
おでんの出汁で煮込んだ煮物と、漬物、それからしじみ汁…、それで見事なひとそろえ。
豆腐が堂々、主役をはってウットリさせるステキな一品。
時間をかけてシッカリ煮込んでいるのになぜか、箸でひとかけ持ち上がる。
崩れぬ頑丈。
なのに舌の上にのっけると、フルッと震えて出汁を吐き出し、上顎当てるとふわりとつぶれる。
出汁の風味が強烈で、なのに豆腐の豆の香りがシッカリ残ってる。
これほどおいしく、これほどふんわりしてやわらかな豆腐をボクは他にしらない。
ウットリします。
それに茶飯もすばらしい出来。
出汁の旨みを存分にすい、しかも固めに炊き上がってる。
そのホッツリとした食感と、豆腐のフルンとなめらかなのが、ひとつに混じっておいしくなってく。
茶碗のそこには出汁がたまって、最後はザブザブ、出汁かけ茶漬けのようになるのも、またたのしくてウットリします。
一緒にやってくる煮物。
牛筋、大根それから煮玉子。
トロトロになるまで煮込んだ牛すじは、脂を全部出汁に吐き出しホロホロ崩れる。
飴色になってしまった大根だって、顎を使わずクチュっと潰れるほどのやわらか。
ムッチリとした煮玉子も、口の中でネットリとろけて、どれをとっても見事に旨い。
カリコリ、この定食で唯一歯ごたえある漬物が、頭の中まで響くような音立て歯切れてたのしくなって、しじみのお汁でしめくくる。
やさしく、しかも力強くてお腹をやさしくみたしてくれる、このゴチソウがたった650円。
ありがたくって頭がさがる…、冬においしいオゴチソウ。
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