ひさしぶりに、贅沢天丼を食べに新宿…、伊勢丹にくる。
銀座天一。
名前の通り、銀座に本店を構えた天ぷら専門店でそこは老舗然とした和な空間。
バブルの頃でありましょうか。
積極的に百貨店などにテナント出店を行なって、そのとき作ったお店がみんなかなりはじけたモダンデザイン。
天井の高いモノトーンの大きな空間。
赤いテーブル。
メタリックな素材のカクカクしたデザインの椅子にライトで、およそ天ぷらの専門店のように見えない不思議な空間。
日本酒じゃなく、ビールでもなく、ワインが似合うちょっとおしゃれなビストロ、あるいはワインバーっていうお店の雰囲気。
場違いシチュエーションとでもいいますか…、予定調和的を外して壊すというのがオシャレでたのしかった時代の産物。
今もそのままのインテリア。
働いている人はシャンと背筋が伸びていて、キリッと笑顔の凛々しい人たち。
言葉遣いや仕事も的確。
さすが老舗と思わせる中身があるのに、奇抜な雰囲気にちょっと損しているような…。
伊勢丹の飲食フロア。
かなり混雑していて例えば寿司屋やとんかつやピザとパスタの専門店にはいつも行列。
けれどココはいつも待たずにスッと入れる。
お店の雰囲気だけじゃなく、おそらく天ぷらという料理自体も、今の時代の料理じゃないのかもしれないなぁ…、と。
思いはしますがココの天丼はかなりの好物。
オキニイリなのでござります。
たまにどうにもこうにも食べたくってしょうがなくなる。
今日がそう。
お店に入るとずっとカラコロ、天ぷらが、揚がってく音がしている。
油と甘いタレの香りがお店の中を満たし待ってる間ずっとお腹がグーッとなります。
大きな丼。
蓋をしてどうぞとやってくるゴチソウ。
揚げたての天麩羅を、タレにトップリ浸してしんなりさせた上、ご飯にのせて蓋してフックラなじませる。
揚げた衣のサクサクとした食感を台無しにして、それでおいしくなってく料理。
なんとも贅沢。
蓋を開けた瞬間の目にとびこんでくるうつくしさ、鼻に飛び込んでくる香りがおいしい。
衣の油はおだやかになり、ご飯に油が移ってすべてがおいしくなっていく。
エビにキス、穴子に季節の野菜で今はアスパラガス。
椎茸とえびのしんじょう、小エビのかき揚げと天ぷらの中でも代表的なモノがギッシリ。
プチュンと歯切れのたのしいエビは、尻尾までもがカリッとおいしく、フックラとしたキスのやさしい歯ごたえもよい。
穴子はドッシリ、尻尾はサクッと揚がってて噛んでくうちにネットリ粘る。
小エビはカラカラ。
歯切れて口にはいってくると転がるようにちらかるたのしさ。
衣に包まれタレ色になり、どれもが同じ色に見え、けれど食べると味わい、食感、まるで違っているのがたのしい。
それぞれおいしく、けれど中でも一番好きな天ぷらが、海老真丈。
肉厚の椎茸の傘の内側に、タップリえびのすり身を詰める。
それをカラッと揚げたモノ。
ズッシリ重たく、噛むとプチュンと肉厚椎茸が前歯で歯切れる。
天ぷらという調理方法は、衣に包んで油の中で蒸しあげるような調理法であって、素材がもってるみずみずしさを損なわないのがステキなところ。
だから椎茸の旨みを持ったジュースが口の中にジュワッと広がる。
次にムチュンとえびのすり身が歯切れてちぎれる。
肉感的でキノコとエビという、山と海を代表している旨みが口にひろがって、一口食べてニッコリ顔がほころぶゴチソウ。
何度も同じお店で同じ天丼味わって、いつもちょっとづつ出来が違って感じる不思議。
ご飯の炊け方、タレのかけ方、当然天ぷら自体の揚がり方といつも違って、そして今日。
すべてが完璧、見事な出来栄でなにより油の香りがよくて、一口ごとにもっともっととお腹と頭が次の一口ねだるおいしさ。
ご飯がカチッとかためにできてて、油ののりがとてもよい。
風味豊かで、しかも口の中で衣がペットリしない。
うれしくなってパクパク食べる。
サイドに控えるさまざまなモノ。
例えば漬物。
菜っ葉にしば漬け、どちらも細かく刻んで山の形に盛って、黄色いタクワンを彩りにする。
目にうるわしく、好きな量だけ口に運んで舌の油を拭えるステキ。
それからサラダ。
ココのサラダはドレッシングが独特で、生姜の風味とすった玉ねぎの甘みと辛味がビリッと味を引きしめるコッテリタイプ。
天ぷらの油に負けず野菜の風味も殺さない。
もともと外国からお客様のおもてなしの舞台になってた銀座のお店で、どんな国の人がやってきてもおいしく感じる上に、日本風と思える味。
それがこの味。
だから今でもアメリカの日本料理のお店にいくと、ここのジンジャードレッシングと良く似た味のドレッシングがやってくる。
インターナショナルな日本の味を、こうして気軽に味わえる。
得した気持ちのオキニイリ。
しじみの汁をコクリと飲んで、今日のお腹に蓋をする。
油のモノをタップリ食べて、けれど決して胃がもたれない…、気持ちも軽く明るくなって明日の元気をもらえる感じ、オゴチソウサマ、またこよう。
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